読み進めるにつれ、 目の前で自動的に更新され続ける文字が、 次第に私を取り囲み、 周囲には眩い光が咲くように広がっていきました。
あまりにも強い光に、 私は思わず目を閉じました。
その瞬間、 膨大な情報と感情が、 一気に脳裏へと流れ込んできました。
光が徐々に引いていき、 再び目を開けると――
目の前の部屋は、 異様なほど新しくなっていました。
初めて足を踏み入れたときの、 崩れかけ、錆びついた光景とは、 まるで別物です。
そして私はすぐに気づきました。
この部屋には、 私以外にも人がいる。
状況を素早く整理します。
どうやら、 書に残された力が、 当時の光景をそのまま映像として再現し、 私は第三者の視点から、 ここで何が起きたのかを はっきりと見せられているようでした。
これほど鮮明な再現は、 完全に想定外でした。
文字に、 あまりにも強い感情と後悔が 込められていなければ、 私の魔法だけで、 ここまでリアルに再現することは 不可能だったでしょう。
「……『あなた』は、 いったい何を 私に伝えたかったのだろう?」
膨大な情報が直接流れ込んできたことで、 私は自然と理解しました。
私が見つけた書を残したのが、 この部屋の誰なのかを。
記録を残していたのは、 十七歳ほどに見える少年。
名前は、 「真守(マモル)」。
真守以外の人々は、 ほとんどが十四歳前後に見えました。
彼らの表情は皆、 ひどく硬く、 まるでこれから起きることを すでに知っているかのようでした。
恐怖を抱えながら、 ただ静かに、 その時を待っている―― そんな空気が漂っています。
「……みんな。 今日も、 なんとか実験を乗り切ろう」
沈黙を破ったのは、 真守でした。
部屋の中で最年長である彼は、 自分が皆を支える立場なのだと、 そう思っていたのでしょう。
「きっと、 誰かが 僕たちの失踪に気づいてくれる……」
「だから、 生き延びよう」
希望を捨てないための言葉。
真守自身、 その言葉に どれほどの力がないかを 分かっていました。
けれど、 希望すら失ってしまえば、 本当に何も変わらなくなる。
だからこそ、 彼は言葉を絞り出したのです。
「――バン!」
突然、 扉が乱暴に開かれました。
そこに立っていたのは、 神殿の神職者たち。
神に仕える者であるはずなのに、 その表情には、 冷酷さしかありません。
温もりも、 慈悲も、 一切感じられない顔でした。
「285、351、409は第一実験室。 205、698、485は第二実験室。 103は第三実験室へ」
神職者は、 感情のこもらない声で、 命令を下します。
ここでは、 名前は存在しません。
あるのは、 冷たい番号だけ。
――103。 それが、 真守に割り当てられた番号でした。
次の瞬間、 光景は切り替わり、 第三実験室へ。
空間の広さや器具の配置は、 私が先ほど訪れた実験室と 大差ありません。
ただ、 変わらず漂うのは、 息苦しいほどの圧迫感。
真守は連れてこられるや否や、 ベルトでベッドに固定されました。
次々と、 無数の管と針が 彼の身体へと接続されます。
正体不明の液体―― あるいは、 何らかのエネルギーが、 管を通して、 真守の体内へと 流し込まれていきました。
その瞬間、 激痛が走り、 真守は、 引き裂かれるような悲鳴を上げます。
意識を失いかけるほどの苦痛。
そして、 遠く離れた他の実験室からも、 同じような叫び声が 次々と響いてきました。
さらに情報が流れ込み、 私は知ります。
ここで行われているのは、 「永生」と呼ばれる実験。
この実験は、 当時の帝王の命令ではありませんでした。
永遠の命を渇望した、 この神殿の主が、 己の欲望のためだけに、 密かに行っていた 残虐な実験だったのです。
真守たちが 連れてこられたのも、 偶然ではありません。
神殿側は、 長年にわたる調査と実験の末、 彼らが、 神話の時代から受け継がれる 「器」の特質を 持っていることを突き止めていました。
「器」とは、 他者から与えられる力や能力を、 吸収し、 受け止めることができる性質。
現代においても、 極めて稀な特質です。
これほど多くの「器」を 見つけ出していたこと自体、 信じ難いことでした。
番号から推測するに、 実験体となった人数は、 私の想像を はるかに超えているのでしょう。
そして、 今行われている実験は、 他者の生命力を、 無理やり実験体へ注ぎ込み、
その反応や、 耐えられる限界を観察することで、 永生を実現する方法、 あるいはその代替案を 見つけ出そうとするもの。
しかし、 「器」の特質は、 本人の自発的な意思があってこそ、 安定して力を受け入れられるもの。
このように、 意志を無視して 未知の生命力を注ぎ込めば、
激しい拒絶反応と、 計り知れない苦痛、 予測不能な副作用を 引き起こすだけです。
それでも、 実験者たちは意に介しませんでした。
悲鳴が上がろうとも、 実験を止めることはなく、 淡々と次の工程を進め、 結果を記録し続けたのです。
こうした実験は、 十数時間にも及びました。
そしてそれが、 彼らにとっての 「日常」だったのです。